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持続可能な開発目標(SDGs)

CSVコミットメントに全てを込める ―― キリンのサステナビリティ経営とSDGsアクション

キリンホールディングス株式会社

キリンホールディングス株式会社

http://www.kirin.co.jp/

キリングループ(以下キリン)における「CSVコミットメント」とSDGsとの関連を同社グループCSV戦略担当 主幹 森田裕之様に伺った。

― 御社は、2013年にCSVを経営の根幹に据えることを宣言し、組織的にもCSV本部を立ち上げて以降、日本における「CSV」経営のリーディング・カンパニーというイメージが定着しています。2017年2月にはCSVストーリーとCSVコミットメントを策定・公表されました。まずは、この経緯と概要を教えてください。

キリンは2015年秋からグループ・マテリアリティ・マトリックスの作成に着手し、2016年6月に開催されたグループCSV委員会において、キリンはグループとして重点的に取り組む課題を決定しました。その後、事業会社の経営企画や関連部門等と議論を重ねて、2017年2月の決算発表と同時に、「CSVストーリー」と「CSVコミットメント」を発表しました。
マトリックス作成に着手したのと同じ時期にSDGsが国連で採択されましたので、その翌年春に発表されたSDG Compass日本語版や、まだ日本語訳が出ていなかったSDGsIndustry Matrixを参考に、我々のグループ・マテリアリティ・マトリクスのプライオリティ付けを行っていったのです。Compassは大変役に立ちました。また、CSVコミットメントにおける5つの構成要素としてSDGs、ストーリー、コミットメント、アプローチ、成果を設定しているのですが、SDGsに関してはターゲットレベルまで落とし込んだ上で、事業起点となる社会課題として位置づけています。
現在は実行のステージに入っています。CSVコミットメントでは、アルコール関連問題に取り組むことを「酒類メーカーの責任」として据えたうえで、「健康」「地域社会」「環境」の3つの社会課題を加えた4領域をCSV重点課題として設定しました。
酒類メーカーの責任では、適正飲酒の啓発と豊かなアルコール文化の醸成に取り組んでいます。健康領域では、グループに医薬品メーカーがあるというユニークなポートフォリオを活かして、薬を飲むよりも安価で手軽においしく健康的な生活に貢献できるように、特定保健用飲料等を通じて未病領域でお役に立ちたいと思っています。もちろん、医薬品事業における治療領域でもアンメットメディカルニーズへの対応や医薬品へのアクセスなどの社会課題の解決に取り組みます。地域社会では、サプライチェーンの持続可能性強化を目指して、中小規模のホップ農家への支援や日本ワインの発展に寄与すべくブドウ畑の耕作面積拡大、各ブドウ産地におけるミニワイナリ―設立を行っています。事業特性から環境面でも様々な課題に対応することが必要で、温暖化、水、容器包装のリサイクル・リユース、生物多様性、自然の保全など、幅広い活動を行っています。

わたしたちの「CSVコミットメント」 持続的成長のための経営諸課題(マテリアリティ・マトリックス)
http://www.kirin.co.jp/csv/

― CSVのマネジメント体制として、グループCSV委員会が2016年に刷新されたと伺いましたが、どのような役割があるのでしょうか。

グループ全体のCSV方針・戦略・計画の方向性を議論し、各社のCSVコミットメント実行状況のモニタリングを行っています。委員長はキリンホールディングス社長の磯崎が務め、主要事業会社の社長やキリンホールディングスの各戦略担当執行役員等が委員として出席しています。2017年は、短期P/Lとのコンフリクトやアウトサイドイン発想のR&Dのあり方などについて議論しました。実行にあたり、海外グループ会社から提案されたアイデアや事例を国内の事業会社が持ち帰るケースもありました。

― CSVコミットメントを策定されるにあたって、工夫した点や苦労した点はありますか。

策定にあたっては、海外グループ会社や国内各事業会社としっかり議論を行ないました。時間は掛かりましたが、実行する段階になった今「やって良かった」と感じています。
コミットメントという言葉を定義した時に、海外の方から「日本人はとにかく真面目で、目標を到達必須を前提条件として設定する傾向が強い。コミットメントはプロミスではないので、飛躍的、理想的で、これまでの延長線ではない高い目標を掲げてほしい。もし目標達成が出来なくとも、その理由とともに説明責任を果たしてくれれば良い。あるいは、納期を再設定しても良い」と言われました。
実行フェーズはCSV戦略部門ではなく基本的に各事業会社が行うため、各社が事業計画の中にCSVコミットメントを具体的に落とし込んでいくことが必要になります。当面のコストが収益を圧迫することも想定されることもある中、稼ぐことがミッションの事業会社側とは対話が必要です。全てがスムースに進むことはありませんが、とりあえず現時点でコミットできることを公表したということです。
実行の進捗を測るKPIについては、現時点はアクションのアウトプットであるプロセス指標が中心です。これらが、結果的に社会や自社にどのくらいのインパクトを与えるのかを、出来れば円換算して定量的に目標化したいと思っています。「測れないものはマネージできない」という考えに基づいています。
非財務のフレームワークを作ったのは初めてのことでしたので、目標を設定するまでに想定していないこともたくさんありました。特に海外の事業会社と国内の会社では企業経営のおかれた社会環境や文化、トップの考え方に違いがあります。例えば、日本では従業員の健康を大変重視しますが、人材の流動性の高い海外事業会社では、心身の健康を害す前に転職してしまうため、そういう意識は皆無だったりします。よって従業員の健康にかかわる目標を全社で導入するということは理解を得られなかったりする。しかし、各事業会社とも議論をつくしましたので各社の事業計画へのコミットメントの導入はそれなりに進んでいると思います。

― キリンには、CSV戦略担当部門があるからこそ、事業会社との議論を積み重ねて、方向性を出していけるのでしょうか?

キリンホールディングスのCSV戦略担当は、キリンが我流でCSVを行うのではなく、アンテナ機能として世界からいち早く情報を集めグローバル・スタンダードに照らして、CSVの取り組みを進めていくという機能があります。
ただし社内にCSVの担当部門がある限り、CSVは会社全体に定着していない証左だと思うこともあります。キリンはまだ過渡期なので、CSV戦略担当部門が各事業会社や部門の背中を後押ししていく段階です。軌道に乗れば、CSV戦略担当部門がなくても全ての部署が現場の判断において、自社の為だけではなく、社会課題の解決に繋がっているのかという基準において、戦略の選択肢を選ぶようにできることが理想です。

― CSVコミットメントを発表後、顕著な動きがありましたか?

日本企業では早いうちにSBT (Science Based Targets)*の認証を受け、スコープ1、2、3で2030年までに温室効果ガスの30%削減を発表しました。その具現策として、東京電力の水力発電によるクリーン電力メニュー「アクアプレミアム」を食品・飲料業界では初、工場での使用としても国内企業として初めて採用しました。4月からキリンビール取手工場、キリンビバレッジ湘南工場で使用しています。再生可能エネルギーはイニシャルでは割高ですけれど、今後、炭素税の導入可能性などを想定するとリスク対策としても必要な措置だと考えています。
また、国内の飲料ビジネスで使う一次容器(紙パック)、二次容器(6缶パック、段ボールなど)を2020年までにFSC認証の紙材に100%切り替えることを決定し、発表しました。

※SBTとは、2℃目標に整合した意欲的な目標を設定する企業を認定する国際イニシアティブで、CDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、WWFが共同で推進。

― CSVコミットメントを発表したことで投資家からの反応は変わりましたか?

スチュワードシップコードの導入以来、投資家も長期的視点を持つようになってきているようです。2015年秋にGPIFがPRIに署名したことが拍車を掛けたように思います。キリンは2017年6月にCSVコミットメントについて投資家向け説明会を開催しました。長短両視点の機関投資家の皆様方に来ていただきましたが、目標と納期を掲げ、また全ての目標を設定できていない状態のまま発表するという前向き(?)な姿勢を存外にご評価いただけたようです。日ごろから投資家とお客様にはそれぞれ必要とされている情報を出すよう心がけています。個人のお客様はターゲット像が漠然としていて手ごたえを感じにくい面があります。その点、投資家とのコミュニケーションは反応が得られるので、対策が打てます。GPIF指数の銘柄に選出されたり、評価が上がったりすると企業努力の見える化に繋がります。ESGへの対応は実行レベルと共に公表の巧拙も影響大だと思われますので色々考えることは盛り沢山ですが、頑張ります。

インタビューの様子

― 御社ではSDGsをどのようにとらえていますか?SDGsをターゲットレベルにまで落とし込んでいるのは非常に画期的だと思います。個々のCSVコミットメントについて、実例も合わせてご紹介いただけますか?

SDGsは社会課題に関する唯一のグローバルな共通言語だと思います。でもSDGsでいう課題を事業機会といきなりとらえるのは簡単ではありませんね。ビジネスモデルを根本的に変えなくてはいけないくらい大変です。SDGsのうち、キリンとしては8つのゴール(2、3、8、9、12、13、15)に絞り、ターゲットレベルにブレークダウンしてアクションを記述しています。
ターゲットレベルで記述することにしたのは、例えば、ゴール2の部分で「ゼロハンガー」という言葉だけでは、「東北のホップ支援」とは結びつかないですよね。でもターゲット2.3では「小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる」と記載されており、これが国産ホップを使ったクラフトビール事業における中小農家の支援と明確に繋がります。

  • ホップ農家の方々

    この事業を具体的にお話しますと、国産ホップの生産者の高齢化に伴いホップ農家は年々少なくなっていて、その影響を受けて生産量も激減しています。ホップは高いところに花を咲かせますので蔓下げ作業が必要となります。高所作業はお年寄りには危険で負荷の高い作業になります。しかも温暖化の影響を受けて生産地の南限は北上し今や東北地方でしか生産できなくなっています。この貴重な国産ホップの生産を維持すべく岩手県遠野市他のホップ生産地をキリンが応援し、クラフトビールに使うことで付加価値を上げていくCSV活動を展開しています。地域活性化に取り組んだ結果、ここ2年で5人の若い新規就農者が加わりました。加えて、ホップ以外にもスペインの枝豆ともいわれるパドロン栽培にチャレンジしている農家から買わせていただきグループの外食企業のお店でビールの新たなおつまみとして提案、販売しています。このようにホップだけでなく、関連農作物への経済的波及効果が生まれ、地域全体の活性化につながっています。しかもこの取り組みは、クラフトビールカテゴリー拡大による国内ビールマーケットのゲームチェンジにつなげる重要な戦略の一つとして位置づけています。新しいビール文化を日本国内で醸成し、海外にも日本のクラフトビールのすばらしさをアピールしていければいいと思っています。

もう一つの事例が国産ブドウの栽培と国産ワインの製造・販売事業です。日本ワインは昨今、世界的に高い評価を受けています。2016年の伊勢志摩サミットでも、当社のシャトーメルシャンが提供され、非常に好評でした。しかし、日本ワイン用ブドウは輸出できるほどの生産量はありません。一方で、日本では耕作放棄地が広がっています。キリンは日本ワイン用ブドウ畑の耕作面積を拡大し、里山を保全しながら日本のワイン用ブドウを育てることに取り組んでいます。さらにブドウ生産だけでなく、地元にワイナリーを建設することで雇用も生むことができます。そのためにブドウの育成に社員のボランティアも活用しています。日本産のブドウで作った国産ワインが、世界中で認められる日を夢見ながら活動を進めています。

― 今後の抱負を一言でお願いします。

グループの事業がキリンの我流でなく、例えばSDGsに照らして、それが本当に世のため人のために孫子の為になっているか、きちんと確認しながらファクトを積み上げたいですね。さらに、その事実をシンプルにキリンならではの骨太感のあるメッセージでコミュニケーションし、皆様に共感していただけるようになりたいと思っています。

(取材・文=GCNJ上野明子/泉沙織・IGES小野田真二/矢野さやか 取材日:2017/10/24)

取材こぼれ話
キリン本社の来訪者打ち合わせフロアには豊富なラインナップを取りそろえた同社商品の自動販売機が設置されています。私たちも好みのドリンクをごちそうになりましたが、森田さんのお話にもあった通り、健康にプラスになりそうな充実した品揃えで心が踊りました。