グローバル潮流を学ぶ
ビジネスと人権への取り組み
人権への取り組みは、SDGsのゴールすべてにかかわる、SDGsの根底に流れる重要なものです。「ビジネスと人権」の関りはSDGsの達成貢献につながっており、人権の意義が高まり続けるなか、国連グローバル・コンパクトも企業に対し、人権に対する認識を高め普遍的価値を堅持するよう、呼びかけています。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンはビジネスと人権ロイヤーズネットワーク(BHR Lawyers)と協力して、「責任ある企業行動及びサプライ・チェーン推進のための対話救済ガイドライン」を策定しました。国際規範が要請する苦情処理メカニズムの要件や基本アクションを具体化し、企業と社会の建設的な対話の促進、苦情処理・問題解決制度の強化および救済へのアクセスの確保を目的としています。また、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの人権デューディリジェンス(HRDD)分科会では、企業がビジネスと人権をどのようにとらえ、どう対応するか、会員企業・団体が共に学んでいます。また人権教育分科会では、社内展開できる人権教育ツールの作成を進めています。
企業が求められていること:人権デューディリジェンス
人権デューディリジェンス(人権DD) とは、企業の人権尊重責任の中核となるものです。2020年に公表された「ビジネスと人権に関する行動計画」においても、日本政府は日本企業に対し、”人権DDの導入と苦情処理の活用を期待する”と呼びかけています。
具体的には、企業は強制労働や児童労働、ハラスメントといった人権侵害のリスクを特定して、予防策や軽減策を取ります。これは、社内だけでなく、供給網(サプライチェーン)も対象となります。もし取引先で強制労働などが発覚した場合には改善を要請し、その結果を追跡します。さらにリスクに関する情報開示も行います。
OECD(経済協力開発機構)は、「責任ある企業行動に関するOECDデューディリジェンスガイドライン」を作成し、事業運営とサプライチェーンにおいて責任ある企業行動とは何か、次の図に具体的に記しています。
基盤となる国家間の枠組み:ビジネスと人権に関する指導原則
世界人権宣言を具現化するため、2005年、国連はジョン・ラギー氏を事務総長特別代表に任命し「ビジネスと人権」の策定に着手しました。ラギー氏は、2008年に「保護・尊重・救済の枠組」、2011年には「人権枠組のための指導原則」を提案し、人権理事会で承認されました。
こうして、「ビジネスと人権に関する指導原則」は、人権保護の政策として、2011年6月16日国連人権理事会で決議され、すべての国家とすべての企業に適用されるものとなりました。これはラギーフレームワークとも呼ばれ、各国の行動計画・人権原則・そして人権DDへと、広範で具体的な広がりを急激に見せています。その原則は、(1) 人権を保護する国家の義務(Protect)(2) 人権を尊重する企業の責任(Respect)(3)救済へのアクセス(Remedy) の3本の柱からなり、序文では次のように記されています。
「国家は国際人権体制のまさに中核にあるが故に、国家には保護するという義務がある。人権に関して社会がビジネスに対して持つ基礎的な期待の故に、企業には尊重するという責任がある。そして細心の注意を払ってもすべての侵害を防止することは出来ないが故に、救済への途が開かれている。(序文より)
実践のための行動計画:ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)
ビジネスと人権の取り組みを進めるために、国レベルで、「ビジネスと人権に関する指導計画(NAP)」を策定する動きが進んでいます。NAPは、企業による人権への負の影響に対して、国連のビジネスと人権に関する指導原則に適合するよう人権を保護するために国家が策定する、常に進化する政策戦略です。
1.NAPはビジネスと人権に関する指導原則に基づき、各国の状況に対応し、
2.ビジネスに関連し現実のまたは潜在的な人権侵害に対処するもの。
3.包摂性と透明性のあるプロセスのもとで策定し、
4.定期的な見直しとアップデートがされる国家の計画(政策戦略)である。
日本も、2020年10月16日に政府から2020~25年の日本版NAPを公表しました。
日本版NAPでは、政府から日本企業に対して、”人権DDの導入と苦情処理の活用を期待する”と明記されました。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンは、諮問委員会に有馬 代表理事が、作業部会に氏家 事務局次長が参加し、NAP策定に参画しています。
ビジネスと人権の次の10年に向けたロードマップ(日本語仮訳版)
「ビジネスと人権に関する指導原則」の策定から10年が経ち、(※)国連ビジネスと人権フォーラム(2021年11月)においてロードマップが発表されました。
GCNJにて「UNGPs 10+ ビジネスと人権の次の10年に向けたロードマップ(仮訳)」を作成しましたので、ご活用ください。翻訳におきましてビジネスと人権リソースセンターに専門家の見地から校閲を頂きました。(2022年5月)
「UNGPs 10+ ビジネスと人権の次の10年に向けたロードマップ(仮訳)」(PDF:842KB)
原文は 「UNGPs 10+ A ROADMAP FOR THE NEXT DECADE OF BUSINESS AND HUMAN RIGHTS」(PDF)
※国連「ビジネスと人権フォーラム」とは?
2012年から毎年、スイス(ジュネーブ)で人権理事会のビジネスと人権作業部会が開催。
2011年に人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」の実施を進め、広く浸透させるために、現状の分析と傾向、進展と課題、今後とるべき方策などを議論する場。
8つの行動分野・18の目標
「より志を高くーペースを早く」と題したこのロードマップは、国家と企業そしてすべての関係者が関わる「ビジネスと人権」対応の、これからの10年目標を示したものです。指導原則が求める、政策の一貫性と、バリューチェーン全体の企業の取組み拡大と、すべてのステークホルダーの参画と協働を、具体的になすべきこととして提唱され、8つの行動分野、18の目標が示されています。
戦略的な方向性 |
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保護・尊重・救済 |
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横断的な重要点 |
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企業行動に関わる目標
ロードマップからキーとなる企業行動に関わる目標には次のようなものがあります。
- ジェンダー、貧困・格差、インフォ―マル経済、紛争地域や、バリューチェーン全体をカバーする
- グローバル2000のすべての企業が指導原則(UNGPs)に則った人権尊重の行動を約束する
- 人権リスクと気候変動リスクの管理を関連付ける
- 経済、社会、環境の持続可能な開発に対し、UNGPsによって「公正な移行」を確保する
- ESG投資、サステナビリティ報告基準をUNGPsに整合させる
- 企業とステークホルダーの対話は人権DDと苦情処理メカニズムの中核である
- UNGPsと企業の人権尊重は、ポストSDGs(2030アジェンダの後継)の中心となる
- 人権DDが、企業の法務、財務、マーケティング、開発、調達、生産などあらゆる部門活動に関係し適用されることを実証していく