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(仮訳)
原則2 企業は、自らが人権侵害に加担しないよう確保すべきである
加担
加担とは、一般的に別の企業、政府、個人、集団などが犯している人権侵害に関与することを指します。
人権の尊重には加担の回避も含まれていますが、これはつまり、企業が自社の直接的な事業活動以外によっても人権の享受を妨げかねないことを示しています。
ガバナンスが弱かったり人権侵害がはびこっていたりする地域では、人権侵害に加担するリスクが特に高まりかねません。とはいえ、加担のリスクはどの業種にもどの国にも存在しています。企業が人権について体系的な管理アプローチを採用すること、すなわち「デューディリジェンス」を実施することによって、リスクを認識、防止、軽減すれば、加担の疑いをかけられるおそれは低下します。
一般的に、加担は2つの要素からなっています。
- 企業または企業を代表する個人が、作為または不作為(何もしないこと)によって他者の人権侵害を何らかの形で「助ける」(容易にする、正当化する、援助する、促すなど)こと
- 自社の作為または不作為が、そのような助けとなりうることを知っていること
企業がデューディリジェンスの実施などの人権に関する体系的な管理アプローチを採用し、人権侵害への加担のリスクを認識、防止してこれに取り組めば、加担の疑いをかけられるおそれは低下します。
加担の疑いは、企業が他者による人権侵害に関与したことによって法的責任を問われかねない状況でのみ生じるわけではありません。メディアや市民団体、労働組合などは、それよりもはるかに幅広い状況から加担の疑惑を抱きかねません。一般的に、企業が組織的に甚だしい人権侵害が起こっている地域に存在し、そこで税金を納めているという事実だけでは、その企業が人権侵害に加担していることにはならないという見方の方が適切といえます。しかし、一部の社会的アクターはこれとは異なる見解を取り、このような状況でのアドボカシーの役割を果たすよう、企業に対してロビー活動を展開することがあります。
加担の疑いは、数多くの状況で生じえます。
- 直接的加担 — 人権侵害に用いられることを知りながら、企業が財またはサービスを提供する場合
- 受益的加担 — 企業がたとえ人権侵害に対して積極的な支援をしたり直接的な原因となっていたりしなくとも、それによって利益を得ている場合
- 加担の黙認 — 組織的または継続的な人権侵害に対し、企業が何も言わないか、何も行わない場合(最も議論の多いタイプの加担であり、法的責任が生じる可能性は最小)
今日の問題
ビジネスの性質と範囲が変化するにつれ、人権問題はますます重要になってきています。それぞれのアクターが異なる役割を果たしているなかで、なぜ人権が組織的な問題として捉えられているのか、その現代的な要因について企業が認識しておくことは重要といえます。
- グローバリゼーション:民間投資の増大によって、企業はこれまでグローバル市場の対象とならなかったような国へも事業を拡大するようになりました。しかし、こうした諸国では人権に関する実績が乏しかったり、人権問題に対処する国家の能力が限られていたりすることがあります。このような場合、企業が人権の促進と尊重という役割を担うことは特に重要となります。
- 市民社会の成長:人権問題に適切に対処できなくなった国がいくつか見られるようになり、その結果、市民のために設置された公共機関から疎外される人々が出るようになりました。こうして生まれた空隙を埋めるために、あらゆるタイプや規模の非政府組織が成長し、徐々に公共政策や市場の問題に影響を与えるようになりました。その中には、人権、労働、企業のアカウンタビリティに関する新たな組織も含まれています。
- 透明性とアカウンタビリティ:グローバリゼーション、市民社会の関心の高まり、企業部門に見られる最近の諸問題などによって、ビジネスへの透明性の要求はますます高まっています。情報技術やグローバルコミュニケーションの発達によって、企業がずさんな、または疑わしい慣行を隠蔽することは難しくなりました。
- 犯罪:国際犯罪が絡む場合、ある企業が犯罪の実行を援助し、その援助が犯罪の実行に実質的な効果を及ぼし、かつ、自社の行為が犯罪の実行を援助することを知っていれば、たとえ犯罪行為を働かせる意図がなかったとしても加担が成立するおそれがあります。
- 国有企業:国有企業は企業自体が国家の一部であり、国際人権法下における直接的な責任を負いかねないことを認識しなくてはなりません。
企業にできること
効果的な人権方針を立てることは、企業が人権侵害への関与を回避する助けとなります。企業がそのような状況に陥ることを避けるには、下記を検討してみることも一案といえます。
- 進出国または進出予定国の人権状況について検証し、人権侵害に関与する危険性や現行の状況における自社の潜在的な影響力を認識しているか。
- 自社の直接雇用やサプライチェーン全体において、労働者の人権を擁護する明確な方針があるか。
- 自社の人権方針がきちんと実践されているかをチェックするシステムを確立しているか。
- 市民団体を含むステークホルダーグループとの率直な話し合いに積極的に関与しているか。
- 自社の警備体制が、人権侵害を助長しないようにするための明白な方針を持っているか。この問題は、警備を自社で行っているか、外部委託しているか、それとも国家によって提供されているかに関係なく当てはまる。
加担の回避に特に役立ちうる行動としては、下記があげられます。
- …武力行使に関する国際的なガイドラインと基準(「法執行官による力と銃器の使用に関する国連基本原則(the UN Basic Principles on the Use of Force and Firearms by Law Enforcement Officials)」(英語)、「法執行官のための国連行動綱領(the UN Code of Conduct for Law Enforcement Officials)」(英語)など)を遵守すること
- …治安部隊に金銭的または物的な支援を行う場合、これらが人権侵害に用いられることのないよう明確なセーフガードを設けるとともに、治安部隊との合意がある場合、自社は国際人権法のいかなる侵害も容認しない旨を明文化すること
- …組織的かつ継続的な人権侵害を公式・非公式的に非難すること
- …投資前と投資後の各局面を通じて関連性のあるステークホルダーとの継続的な協議を社内外の双方で行うこと
- …自社の影響力の及ぶ範囲内で明らかになっている人権問題について、社内の認識を高めること
- …可能であれば、投資やプロジェクトの事前調査・計画段階において、社内で人権侵害にかかわるリスクが最も高い部署と、人権を推進する機会がありうる部署を予め見極めておくこと
- …提案中の投資案件がもたらす作用および、コミュニティや地域の人権に及ぼす可能性のある影響(意図するか否かを問わず)の分析を基に、人権アセスメントを実施すること
- …投資後の内部的「機能リスク」を特定すること。そのためには購買、物流、政府関係、人材管理、保健・安全・環境(HSE)、営業、マーケティングなどの機能について、調査が必要となる。
ツールやリソースを含む国連グローバル・コンパクトの人権原則を実践する方法についてさらに詳しく知りたい方は人権問題のページ(英語)をご覧ください。
(最終更新:2011年1月10日)