■株式会社大和証券グループ本社
誰もが時間・場所に制約を受けない柔軟な働き方へ
テレワークやフレックス制度をさらに活用
アクション宣言
- 誰もが時間・場所に制約を受けない柔軟な働き方を実現するため、テレワークやフレックス制度を更に柔軟に活用できるよう運用する
- 全該当社員の育休取得日数14日以上、取得率100%を目標とし、誰もが持続可能な柔軟な働き方ができる環境を実現する

他社事例も参考に、今後の業界の「働き方改革」を一層リードしていく
大和証券グループ本社 代表執行役社長CEOの荻野明彦氏は約20年前、社内で女性活躍推進チームを立ち上げた際の人事課長でした。「GCNJ サミット2025」のディスカッションに参加した際の印象を次のように語りました。
「我々は業界の中でいち早く働き方改革を進めてきたという自負がありますし、実際に成果も出ていると思っています。一方で、他社の事例を見たとき、『進んでいるな』とか『当社でも取り入れると良いのでは』と思う点も多く、大変参考になりました」
「GCNJ コレクティブ・アクション2030」の課題2つを解決することで、一人一人の強みや個性が最大限に発揮され、組織が成長し、日本社会の発展に繋がる……そう考えて賛同の意を表して頂いた荻野氏。その企業理念の一つが、「社員を重視することが、最終的に顧客や株主の満足度を高める」という「人材の重視」です。
「時代はどんどん変わっていきます。例えば、コロナ後は当たり前になったテレワークのように、新たなツールを使った働き方が出てきています。こういう変化に終わりは無いと思っていますから、他社の事例も参考にしていかないと、気が付いたら遅れを取っていたということにもなりかねません。そういう時代感覚を研ぎ澄ませていきたい」
同社のワーク・ライフ・バランス推進室を、この言葉がまだポピュラーでなかった頃に立ち上げ、初代室長でもあった荻野氏にとって、他社の取り組みはどのように参考になっていたのでしょうか。
「他社でうまくいっても、当社ではうまくいかないものもあって、そこは難しいなと思っています。例えば、育休中の社員の穴を埋める周囲の社員に金銭的なサポートをするという他社の事例を検討したのですが、現場からは『金銭以外のサポート方法があるのではないか』『金銭という手段はちょっと違うのでは』という意見が多かった。自社と他社の肌感覚の違いを実感したと同時に、社員が自社ならではの視点で考えていることが分かってうれしかった」
向上しつつある生産性を見える化する
女性活躍をはじめ、誰もが働きやすい職場環境を構築するには10年かかった、と荻野氏。この10年を振り返っての成果を伺いました。
「働き方改革は、付け焼刃でやっているわけではありません。それが世間にも浸透し、就職の人気ランキングにも反映されて優秀な学生が集まるようになってきているのを実感します。また、マネジメント層に女性が増えていること、離職率が減少してきているのもその成果でしょう。ワークライフバランスがしっかり考慮された、女性が働きやすい職場は、当然ながら男性も働きやすいということだと考えています」
残る課題は生産性の向上だ、と荻野氏は言います。
「肌感覚では、間違いなく生産性は向上しています。ただ、我々の業界は市況の変化による収益のボラティリティ(変動幅)が大きく、働き方改革の成果がダイレクトには反映されにくいところがあります。そこをちゃんと因数分解して、見える化する形ができればいいかなと思っています。
社員の働き方改善だけで終わってしまってはいけません。働き方改革の本来の目的は、色々な制約に左右されない、働きやすい環境を社員に提供し、結果として会社の業績と企業価値の向上につなげることです。この意識はかなりの程度定着していますが、制度の更なる改善が企業価値向上につながる、といった好循環をさらに推し進めていきたいと思っています」

当たり前だったプロセスをもう一度ゼロから見直す
「基調講演の小室叔恵さんのお話にもありましたが、日本の全人口の中で生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の割合が減少する『オーナス期』に入っている中で、意識を変えなければいけない部分があると思います。個々の社員は、頭では理解していても、自分ごととして腹落ちしていない部分が多々あります。そこをまず変えていきたい」
定時に退社するために“今日1日、どのように動くのか”を非常に緻密に組み立てるドイツの事例も他社から出ました。
「弊社では、営業系のセクションがその辺りの時間管理をしっかり行っていますが、本部スタッフについてはまだ改善の余地があると感じます。自分のキャパシティを超えそうな仕事を片付けるためには、自分の時間をどうコントロールしていくかと、仕事に優先順位をつけ、必要に応じて捨てる仕事を見つけることが重要です」 仕事のプロセスの改善には、作業ミスやシステムの障害などによるオペレーショナルリスクが伴います。
「これまでA→B→C→D→Eのプロセスを踏んで物事を決めていたが、実際にはBとCの工程が不要であり、A→D→Eだけ十分に対応できるのではないか、その際、新たにFという問題が発生する可能性が考えられる場合、『プロセスをA→D→Eに簡素化する』ことと、『新たに発生するFという問題への対応』のどちらがより効率的かを検討しつつ、一定のオペレーショナルリスクを取りながらも、こうしたトライをしてほしいと伝えています」
多くの企業が手を取り、日本全体の生産性向上に貢献を
仕事のプロセスの合理性を突き詰めれば、「何のためにこの仕事をしているのか」という本質論に行きつきます。
「本質に照らし合わせれば、必要なプロセスとそうでないプロセスが、恐らくそれぞれの現場で判断できると思います。旧来の仕事のプロセスがまだマニュアルに書いてあればいいほうで、『これはこうしてやるんだよ』と、先輩の言いつけを金科玉条のごとく守り続けている、といった事例は山ほどあると思います」
確かに手間も時間もかかるが、頭を使わずに済むし、仕事をした実感もある、これが旧来の仕事の厄介なところかも知れません。
「本質と言いましたが、何もそう大上段に構える必要はありません。1年、2年も働いていれば、『何のためにやっているのか』を問い直すことはできるはず。僕が人事課長時代に作ったルールが、今も守られているのに気づいたことがあります。その時の状況で作ったのであって、環境が変わった今は必要ないはず。それにもかかわらず守られているということは、何のために作ったルールなのかが見えていないということ。そこはぜひ考えてほしい」
このアクションを実現していくには、もっと多くの賛同企業が加わってほしいと話します。
「他社の事例についてまとめて話が聞ける機会は、他になかなかないと思います。それが自社で使えるか否かはまた別の話。ぜひお話を聞いて頂きたいですね。日本全体の生産性向上に、ぜひ貢献してほしいと思います。このままではただ落ち込んでいくだけです」