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■株式会社東芝
ダイバーシティは企業が生き残る道​
日本全体で幸せになる社会を目指す

アクション宣言​

  • 残業を前提としない働き方を実現する。まず第一歩として高負荷者の業務平準化を図る。​
  • 性別に関わらず育児を理由とした休職・休暇を取得しやすい職場を実現する。
株式会社 東芝 代表取締役 社長執行役員CEO 島田 太郎 氏

「人と、地球の、明日のために。」他者を思いやり、よりよい社会へ​

企業理念として「人と、地球の、明日のために。」を掲げる東芝グループ。その実現には「1社だけでなく社会全体で意識を共有し実行することが必要」と語るのは、株式会社東芝 代表取締役社長執行役員CEOの島田太郎氏です。

「一人ひとりの個性を認め、誰もがWell-beingを実感できる社会の実現を目指す。そんな『GCNJサミット2025』の趣旨は、東芝の企業理念に通じるものがあります。だからこそ、『GCNJ コレクティブ・アクション2030』で我々の取り組みを具体的に宣言することが、極めて重要だと考えました」

社会全体でさまざまな立場の人を理解し、受け入れる。多様性を浸透させていくには、相手のことを想像する力も求められます。

「例えば、台風で事前に電車の運転を停止するケースを考えてみてください。もちろん、それで不便や不満を感じる人もいるでしょう。しかし、その陰には、必ずそういう状況で対処し働く人たちがいます。そういう人々への思いやりや想像力を働かせること。それがよりよい社会のあり方だと思います」

そもそもビジネスシーンにおいて、これほど多様性が重視されるのには理由があります。歴史を振り返ってみても、共産主義よりもダイバーシティの資本主義が定着してきました。その理由は、資本主義では生産手段を所有し再投資することで、イノベーションへのモチベーションを高めることができたからです。

「つまり、ダイバーシティを失ってしまっては、将来生き残れないということ。一方、現代は資本主義の行き過ぎが顕在化しているのも事実です。だからこそ、善に至る『至善』の気持ちを思い出してほしいと思っています。考え方の違う人間が集まるからこそ、資本主義に善の気持ちが宿り、『人と、地球の、明日のために。』への力が湧きます。これこそが東芝、そして日本の成長の根源となるはずです」

そんな理想の未来への一歩が、今回のアクション宣言です。

システムを活用し意識改革、残業80時間超過者ゼロを達成

東芝では経営戦略のひとつとして、業務効率化に注力。労働時間や業務負荷の偏りを是正するために、業務標準化・効率化・組織体制の見直しに取り組んでいます。具体的には、「所定時間外労働80時間・超過者ゼロ化」と目標を設定。

その実現で効果を上げていることのひとつが、「勤務状況把握ツールの活用」です。具体的には、①当月の勤務状況(労働時間など)をポップアップで表示、②一定の時刻に従業員のPCを自動的にシャットダウンなどがあります。他にも、「勤務間インターバルを意識した働き方の推進」「働き方改革月間の設定」「経営幹部会議でのKPIの共有」「サステナビリティレポートによる社外向けの発信」など、多角的に施策を実施しています。

「これらの取り組みを通じて徹底したいのは、社員一人ひとりの意識付けです。人間はしっかり睡眠や休息をとる方が、パフォーマンスも向上することは科学的にも証明されています。そういうことも含めて、さまざまなアプローチで、さらに意識付けを深めていきたいと考えています」

実は、所定時間外労働80時間超過者ゼロは、目標設定当初はなかなか達成ができませんでした。当時、東芝グループのデジタルソリューション事業を担う東芝デジタルソリューションズ株式会社のトップだった島田氏は、幹部社員に向け「労働時間削減」への重要性を改めて伝えました。トップの強い意志は社員の意識を大きく変えることになり、目標を達成。同時に利益率も改善できました。

「やはり、トップが本気を示すことだと思います。残業を減らすことにマイナスとなることはなく、逆に長時間労働は健康を害するリスクが高まることになりかねません。会社にとってはその方が大きな損失です」

その一方で、数字だけが独り歩きし、それ自体が目的化してはならないとも指摘します。

「数字ありきでは、本末転倒です。結果的に自然と目標を達成する。そんな方向に意識を向けていきたいですね」

今後の課題は男性育休取得の向上

一方、「男性の育児休暇取得は、まだまだ課題が多い」(島田氏)のが実情です。背景にあるのは、組織と本人の理解や認識の不足、業務の属人化です。そこで業務の「見える化」や「標準化」を進めることで、2030年までに「男性育休取得率(育児を理由とした休暇含む)80%達成」を目標に設定する予定です。

「今回、『GCNJサミット2025』に参加して、他社の取り組みを知る機会となったことは大きな刺激となりました。男性育休取得のために、ある程度、強制力をもって取り組んでいる企業もあり、ひとつの方法として参考にさせてもらおうと思います」

とはいえ、男性育休への意識は確実に変わってきています。最近、島田氏の秘書の男性社員が率先して男性育休を取得したのは、その一例です。他社からは「社長秘書が男性育休を取得」と驚かれたそうですが、本人が申告する前に、島田氏自ら育休取得をすすめる言葉がけをしたとのこと。まさに言行一致を象徴するシーンとなりました。

男性育休推進への強い意欲は、島田氏自身の経験も影響しています。若い時はワーカホリックだったという島田氏ですが、ドイツへ赴任したことが自身の意識を大きく変えました。

「振り返ってみると、仕事ばかりしていた頃は、どうしても視野が狭くなりがちでした。ドイツでは全員5時には退社、男性の育児休業も当たり前です。最初こそ戸惑いましたが、そういう働き方を経験したことで、自分のキャリアプランについてじっくり考える時間が持て、家族ともとても良い時間を過ごせました。仕事だけではない多様な経験は、モチベーションになり、仕事にも生きると実感しています」

マルチカルチャー時代に向け、企業が率先して行動を

『GCNJ コレクティブ・アクション2030』では、みんなが集まって議論することにも価値があります。日本では、多様性というと女性の問題にフォーカスされがちですが、「その先にあるマルチカルチャーを意識していくことも必要です」と島田氏。カルチャーが違えば、当然、常識も違います。その違いを話し合い、相互理解を深めることが、今後ますます大切になっていくでしょう。

また、「日本人=働き過ぎ」というイメージも、明治時代以降の話であり、決して働き過ぎが日本人の特性なわけではないと、島田氏は語ります。

「そういうことも含めてあらゆるステレオタイプを外し、日本全体でみんながもっと幸せになる方向を目指していくべきでしょう。そのためにも、『GCNJ サミット2025』のような場で、日本経済を牽引するトップ企業が集まり、さまざまな意見を交わし行動に移していく。まさに今がそのタイミングだと思います」